若年非正規雇用の社会学‐階層・ジェンダー・グローバル化 (大阪大学新世紀レクチャー) | |
大阪大学出版会 2009-06-04 売り上げランキング : 157700 |
我々の世代やその下の世代は、決して人ごとでは無い「若年層の非正規雇用」。世間では色々と言われているが、印象論が多く実際にどのような動きをしているのか、わからない場合が多い。本書「若年非正規雇用の社会学‐階層・ジェンダー・グローバル化 (大阪大学新世紀レクチャー)」は、若年層の非正規雇用を研究している研究者の研究成果をまとめた物である。
内容は最初に「なぜ、若年非正規雇用は問題なのか?」といった大本から始まり「格差論の再生」「ジェンダー」について研究結果がまとめられている。こちらの内容も興味深い物があるが、個人的に最も面白かったのが「若年正規雇用がなぜ増えたのか?」という箇所だ。
著者は世間でよく言われてる「規制緩和説」「景気循環仮説」「若年堕落説」をそれぞれそ否定している。まず「規制緩和説」については、法改正によって派遣労働者が増加した事を認めつつも、非正規労働者の中で派遣労働者は1730万人のうち130万人に過ぎないと指摘、むしろパートタイム労働法により規制はむしろ強化されているとしている。
「景気循環説」では1985年から2007年まで非正規雇用が増えているとし、バブルの時でも増加していることから景気が良くなれば非正規雇用は減るという事は20年間起きなかったと説明している。また「若者堕落説」については、仕事志向の若者は増えており、そもそも非正規雇用は全年代に増えてきており、もし堕落が原因であれば全ての年代が堕落していることになると一蹴している。
また1972〜1982年生まれ、いわゆる「失われた世代(ロスジェネ)」が数多く「非正規雇用」についているとの仮説についても、それより以前の世代については数が多くなっていると認めつつも「失われた世代」より若い世代ではさらに非正規雇用が増えている事をデータで示している。もし「失われた世代」が特別な世代であるならば、それより若い世代の非正規雇用は下がって良いはずだ。
このように本書では従来言われていた「非正規雇用」の増加の原因を否定し、社会や経済の構造が変わってしまったために「非正規雇用」が増加したと説明し、景気が回復しても抜本的な改革をしなければ長期的な失業率と非正規雇用率は減少しないと説明している。
それでは、どのようにすれば良いのか? という点については、本書を読んでいただければと思うが、個人的に今まで言われていた、「仮説」がそれほど「非正規雇用」の上昇に大きな影響を与えていないのに驚いた。これだけ長い年月が積み重なっていった問題の簡単方法に銀の弾丸は存在しないのだろが、それをついつい求めてしまうのだろう。
(この記事は2009年11月に書いた記事です。)